…あれから一週間がたった。
明日香は、即死だった。
バイクに乗っていた人は、奇跡的にも一命を取り留めた。
事故原因は、ハンドルミス。
その人は、明日香の両親にものすごく謝っていた。
たくさん、たくさん、謝っていた。
わたしにも、たくさん謝ってきた。
…でも、何度謝られようと…明日香はもう、戻らないんだ…
明日香の両親は、わたしに対して、優しくしてくれた。
「何故、貴女が死ななかったの!」
なんて言われるかと思ったけど。
そう言われても不思議じゃないのに、言われなかった。
寧ろ、「貴女だけでも生きていてくれてよかった」って、言われて抱きしめられた。
ねぇ、明日香。どうして死んじゃったの?
みんな泣いてるよ?
みんな悲しんでるよ?
なんでわたしを置いていったの?
…どうして、わたしじゃなかったの?
†
今は夏休み。
何もする気がない。
遊びも勉強も、何もかも。
起きることすら憂鬱で、寝ることすら恐怖で。
…何度、あの光景を見たらいいんだろう。
夢の中で、何度も何度も、わたしはあの日を繰り返す。
永遠に繰り返される、スパイラル。
終焉のない螺旋律。
いつまでも、ぐるぐると、廻る。
出口の無い迷路。
光の無いトンネル。
地図も明かりも、失くしてしまった。
わたしは、暗闇に、取り残された…
†
コンコン
ノック音の後に、入るぞ、という声がした。
「また勉強していないのか、お前は」
…また来た。
明日香が死んでから、毎日のようにわたしの部屋に来るようになった父さん。
来てはずっと愚痴をもらす。
「まったく、高校入学してからダラダラ過ごして…
お前は俺らの娘なんだからな。そんなんだと良い大学に行けないぞ」
…いい大学、か…
「明日香ちゃんが今のお前見たら悲しむだろうな」
そして、いつものように明日香の名前を出す。
父さんは馬鹿なの?
「…明日香は、もう居ないよ」
「だからこそ、明日香ちゃんの分まで頑張りなさい」
そう言って、父さんはわたしの部屋を出た。
明日香の分まで、か…確かに正論かもしれない…でも…
「…結局は、父さんと母さんのプライドの問題ってコトなんだね、明日香」
皮肉だよね。
明日香が死んでから、明日香の言っていた言葉の意味に気づくなんて…
「明日香…」
明日香、明日香…
「この家は鳥籠みたいだよ、明日香…わたしは翼の折れた、雲雀…」
小さく、弱い、雲雀。
鳥籠に入れられた、飛べない小鳥。
翼が折れたら、生きられない。
「…明日香は、わたしの翼だったんだよ…?」
明日香が居たから、籠の中でも飛べた。
明日香が居たから、生きてこられた。
明日香が…
「明日香が居なかったら、わたしはもう、生きていられないよ…」
瞳からは、たくさんの雫が…
…落ちなかった。
流れない。
「わたしは、明日香が居なくなってから、もう泣けないんだ…」
泣きたいのに。
泣きたいのに。
瞳は渇ききったまま。
「…明日香…」