「…と言う訳だ。姫は学校の事も、自分の仔とすら記憶が無いからな。怖がらないように接してやれよ?

 では、後は担任の原田先生にお願いするとしましょう。お願いできますか?」

 「え、えぇ」

 えっと…天城先生があたしの事をクラスの皆に説明してくれた。

 でも、なんだかいろいろと言われてる…

 何を話してるのかまではわからないけど、すごく気分が悪い。

 何?『あたし』って苛められてた?

 天城先生が原田先生、だっけ?に会釈してる。

 ってあーあ、ラピュタ帰っちゃった…

 

 ん?

 

 ラピュタって…誰?

 

 それを考える暇はなかった。

 原田先生が何故かびくびくしながら話し始めた。

 「え、えと、では、学級委員であ、麻月さんの隣の席の水瀬君。あ、麻月さんの事頼んでも、いい、かなっ?」

 声がかなり震えてる。

 そしてどもってる。

 クラスにざわめきが起きた。

 えぇーかわいそー、とか、ほっとけばいいじゃん、とか聞こえてくる。

 このクラス…なんだか、嫌……気持ち悪い…

 本当に『あたし』は此処でやっていけてたの?

 あたしはこれから…やっていけるの…?

 

 教壇に立ちっぱなしだったとりあえず言われた席に着いた。

 LHRが終わって少しの休憩。

 あ、そういえば、結局大掃除と始業式には間に合わなかった。

 担任の…うん、原田先生だ。があたしに声を掛けてきた。

 「あの…っ何かあったら、言ってね?」

 顔が怯えているのがものすごくよくわかる。

 すごく青ざめている。

 唇が震えてる。

 何がそんなに怖いのだろう。

 あたしはそんなに怖い人間だったのだろうか。

 「はい、ありがとうございます」

 と笑顔で言ってみたけど、逆に引かれたかな…?

 原田先生は顔を引きつらせたまま教室を出ていった。

 ちなみに、あたしの席は一番後ろの列の一番窓側。

 その窓からは運動場が一望できる。

 今は窓は開いていて、心地よい風が入ってくる。

 …クーラーついてるから、閉めたほうがいいのかな…?

 でも…もうすこしこのままにしておこう。気持ちいいから…

 夏の碧い空気を含んだ風が部屋の中へと誘われる。

 あたしの金色の長い髪が太陽の光を受けてキラキラと輝く。

 自分で言うのもアレだけど…結構綺麗かも……

 

 ふと隣を見ると、丁度水瀬君がクラスの男子に連れていかれるところだった。

 どーせ、俺の悪口でも言ってるんだろーな。

 

 ……あれ?

 

 …オ、レ……?

 あたし、自分の事、『オレ』って、言ってたの…?

 

 

 

 

 

 

 授業開始のベルが鳴り、誰かわからないけど先生が教室に入ってきた。

 なんかジロジロ見られてる気がするんだけど…気にしないようにしよう。

 最初は数学のテスト。と言っても、50分中最初の20分は課題提出や先生からのお話らしい。

 あーあ…なんだか暇なんだけど…

 課題は前の『あたし』がしっかり鞄に入れてくれていた。

 頭はよかったのか、特に赤色が目立ったりはしない。

 テストに向けてあたしも一応プリントには目を通してみたけど、対して難しくもなかったし。

 

     ころんっ

 

 何かが机の上に転がった。

 紙くずのようだ。一体誰が…?

 隣を見ると水瀬君が紙を指差し、何か口パクしている。

 

 「(あ・け・て)」

 

 あたしはそれを開いてみた。

 中には文字が書いてある。

 

 「(勉強は大丈夫なの?)」

 

 ………

 …返事はやっぱり返すべきだよ…ね…?

 

 (大丈夫。授業の内容と言うか、解き方とかは全部頭の中にあるから)

 

 「(ならテストに支障はないんだ、よかった。麻月さん頭よかったもんね。

  ところで、学校内の地図は把握できてる?)」

 

 …地図。

 勉強は覚えてるくせに、地図はわからないという不思議。

 なんでなんだろう?

 学校が嫌いだったのかな?

 

 (それが、この学校複雑だから、地図見ただけじゃ解らなくて…)

 

 「(じゃあ、昼休みに案内してあげる)」

 

 (いいの?)

 

 「(もちろん。だって困るでしょ?)」

 

 (…ありがとう。ねぇ、クラスの皆はどうしてあたしに対してあんな態度なの?そして、どうしてあなたは優しくしてくれるの?)

 

 

 いきなり話変えちゃったけど。

 今日学校に来てずっと引っかかっていた事。

 

 

 …返事が返ってこない。

 当たり前だ。課題を一番後ろの人が集めなければいけないから。

 一番後ろということは、当然あたしも同じ列の人の分を集めなければならない。

 あたしはやはり嫌われているのだろうか、なかなか提出物をあたしに渡してくれない。結構手間取った。

 席に着くと机の上に置いてあった。

 

 「(それも昼休みに教える)」

 

 と書いてある。

 …それも大事なんだけど、もう一つ気になる事があった。

 

 …この学校って、どうして始業式の日なのに午後もあるのかな…?

 その後で必然的に知る事になるんだけど、学園祭の準備の為だった。